2007年07月01日

科学入門書:病気はなぜ、あるのか(進化医学による新しい理解)

私たちの体はこんなにもうまくできた構造をしているのに、なぜ病気にかかりやすいのだろうか。

本書は「ダーウィン医学」(=「進化医学」、チャールズ・ダーウィンの自然淘汰の理論)をベースにして、病気やケガ、老化など我々にとって身近で重要な問題を、2人の進化学者がわかりやすく解説したものである。 

著者らは病気の原因として、防御、感染、新しい環境、遺伝子、設計上の妥協、進化の遺産の6つを挙げている。

そして、それぞれのカテゴリーの中で、病理は真価を認められないある種の利益と関係しているという例を紹介している。


人間にとって病気は憎むべき存在だという思い込みが、根底から覆されるような考え方である。


たとえば、防御について言えば、色白の人が重度の肺炎にかかると、顔色がくすみ、ひどい咳をするだろう。


この場合、くすみは欠陥があることの表れであり、咳は防御の表れである。
欠陥を治すことは有益であるが、防御を妨げて、排除してしまうと、大変なことになる可能性がある。

しかし、実際の医療の現場はまさに、防御を妨げるような治療法が行われているのである。



我々の体は長い時間をかけて、種の繁栄に有利なように進化してきていて、さまざまな肉体の現象は、どれもこの目的を果たす上で有効なのである。

医学を進化の視点で見ることは、病気の進化的起源を理解するのに役立ち、その知識は医学本来の目標を達成するのに大いに役立つ、と著者らは自信をもっている。

そして、我々は本書を手にすることによって、彼らの自信に間違いがないことを知るだろう


著者らは「老化とは若さの泉だ」と指摘している。
血管の老化、つまり動脈硬化にはカルシウムの沈着という現象が見られる。

骨折に際して、カルシウムの代謝を変える遺伝子が関与し、その遺伝子はまた動脈硬化を促進する役割を果たす。


つまり同じ遺伝子が一生の中でポジティブにもネガティブにも働くが、進化という立場から眺めると、この遺伝子は淘汰上有利に働く。
遺伝子が老いた場合に不利に働いても、若いときにわずかに有利に働くならばその遺伝子は集団の中に広がり続けていくはずだ。


このような研究報告を渉猟していくと悲惨で克服を至上命題とされている疾病の別な側面に気づかされる。

例えば、記憶中枢である側頭葉が選択的にダメージを受けるアルツハイマー病。

米国国立老化研究所(NCI)の研究者は脳の中でも最近になって進化した部位の異常が集中することに注目し、「過去400万年以上にわたって、人間の脳を非常に急速に増大させた遺伝子の変化が、ある人々にアルツハイマー病をおこさせているか、または、他の遺伝子の変化によって打ち消されることがまだないような副作用を生んでいるのではないか」と提案している。

 
痛風はどうだろうか? うつ病は? 分裂病や児童虐待にも適応的な意味はあるのだろうか? 

答えはすべて本書に書かれている。

原題は「Why We Get Sick」だが、「病気はなぜ、あるのか」という邦題も意味が深い。


医療関係者はもちろんのこと、生命や人間、動物、遺伝、病気などに興味のある人にお奨めです。(目から鱗がたくさん落ちます。)


著者のネシー氏はミシガン大学(Univ.Michigan)精神医学部教授で適応進化研究部門の代表、ウィリアムス氏は遺伝子淘汰説の提唱者の1人。
生物の形態や行動に、永い進化の過程で培われた適応的な意味があるように、罹病や老化といったプロセスにさえ進化的な意味があると主張する。




【目次】

病気の神秘/自然淘汰による進化/感染症の徴候と症状/終わりなき軍拡競争/ケガ/毒素―新、旧、いたるところ/遺伝子と病気―欠陥、変わり者、妥協/若さの泉としての老化/進化史の遺産/文明化がもたらした病気/アレルギー/癌/性と繁殖/精神障害は病気か?/医学の進化


病気はなぜ、あるのか




病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解






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posted by ホーライ at 21:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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